※本記事は流動性を全価格範囲(0から∞)に配置する場合の一般的なインパーマネントロスの仕組みを解説しています。価格範囲を指定する集中流動性型のインパーマネントロスについて知りたい方は「こちらの別記事」をご覧下さい。
この記事から分かること
- インパーマネントロスの仕組み
- インパーマネントロスの計算式
- インパーマネントロスの対策
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インパーマネントロスとは、分散型取引所で「流動性マイニング」を行うとき、提供した仮想通貨ペアの片方の価格が相対的に変わるときに発生する一時的な損失のことです。
※impermanent(インパーマネント):「一時的な」の意味
「パンケーキスワップ」や「ユニスワップ」といったAMM型の分散型取引所でのみ発生し、「Hyperliquid」や「edgeX」のようなオーダーブック型の分散型取引所では発生しません。
前提として、AMM型の分散型取引所への流動性提供は市場にあなた自身の資産を並べることを意味します。
さとう提供した流動性がスワップのときに利用される代わりに、スワップ手数料を報酬としてもらえる訳です。
誰かが分散型取引所でスワップを行い価格が変わると、あなたが提供した流動性の構成枚数も同時に変わってしまうため、このときに未確定の一時損失「インパーマネントロス」が発生します。


インパーマネントロスは価格上昇と価格下落の両方で必ず発生し、流動性の構成枚数が変わる時にプラスの利益として出ることはありません。(理由は本記事後半で解説)
- 価格上昇時:価格上昇の恩恵が減る
- 価格下落時:価格下落の影響が強まる


従って「流動性を提供して運用するとき」は、利回りがインパーマネントロスを上回るかどうかが運用成功の判断基準になります。
インパーマネントロスの損失早見表は次の通りで、価格変化が大きいほどインパーマネントロスも大きくなります。
| 価格変化率 | 損失 (%) | BTC価格例 |
|---|---|---|
| 1.00倍 | 0.0% | 100,000USDT/BTC |
| 1.25倍 | 0.6% | 125,000USDT/BTC |
| 1.50倍 | 2.0% | 150,000USDT/BTC |
| 1.75倍 | 3.8% | 175,000USDT/BTC |
| 2.00倍 | 5.7% | 200,000USDT/BTC |
| 3.00倍 | 13.4% | 300,000USDT/BTC |
| 4.00倍 | 20.0% | 400,000USDT/BTC |
| 5.00倍 | 25.5% | 500,000USDT/BTC |
インパーマネントロス 損失早見表
※インパロスの%×価格変化後のガチホ時資産(HODL資産)でインパーマネントが計算されます。
繰り返しになりますが、インパーマネントロス(IL)はあくまでも一時的な損失です。



流動性提供を解除するまでは確定せず、価格が戻ると解消される点も覚えておきましょう。


- ILは価格が変わると必ず発生
- ILはあくまでも一時的な損失
- 価格が戻れば解消する
- 流動性解除でILは確定する
- 発生しても利回りが上回ればOK


分散型取引所のインパーマネントロスとは


提供した流動性の枚数変化の仕組み
インパーマネントロスの計算式に入る前に、まずは流動性の枚数変化の仕組みを解説します。
前提として、分散型取引所(AMM)に上場している仮想通貨の価格は、全て各流動性プール内の仮想通貨の枚数比で決まっています。


多くの代表的な分散型取引所は同じAMM(Automated Market Makers)を採用しており、各プール内の枚数関係やスワップ価格は全て次の式を基に自動的に定まる仕組みです、
\(XY=k\)


※最も一般的なUniswap V2タイプの場合の式。XとYの掛け算であるkで流動性プール内の仮想通貨の枚数の変化の仕方が決まるので、Constant Product AMMと呼ばれることがあります。(直訳:定積AMM)
kの値は流動性プールに提供されている仮想通貨の枚数の掛け算で、運用目的で新しく流動性プールに追加で仮想通貨が提供されたり、削除されたりするまで変わりません。(スワップでは変わらない)



実際に数値例を用いて、あなたが提供した流動性の枚数変化をイメージしてみましょう。
あなたは次の「BTC&USDT」を流動性として提供しました。
- USDT=40,000枚(USDTの流動性枚数をX)
- BTC=2枚(BTCの流動性枚数をY)
- AMM:XY=k=80,000
※他の人の流動性提供はない場合を想定。実際は他の人の流動性提供分も含めてkが計算されます。
現在価格は流動性プールの単純な割り算で決まるので、BTCのUSDT価格は20,000USDT/BTCとなります。
誰かがこの流動性プールで10,000USDTを使ってBTCにスワップしようとしました。



現在BTCは1枚20,000USDTのため、10,000USDTを使うと半分の0.5BTC分を買えるというのが直感だと思いますが少し違います。
スワップによって流動性プール内の仮想通貨の枚数はXY=kに従って、次のように変わります。
- まず変化後のXをAMMの式に入れる:(40,000+10,000)Y=80,000
- Yを計算する:Y=80,000÷50,000=1.6
Y=1.6となり、スワップ前に流動性プールの中にあったBTC2.0枚との差である0.4枚がスワップされるBTCです
この結果、あなたが提供した流動性は次のように変化します。
- USDT=50,000枚
- BTC=1.6枚
- AMM:XY=k=80,000(変化なし)
価格は流動性プールの単純な割り算で決まるので、この時BTCのUSDT価格は31,250USDT/BTCとなります。
インパーマネントロスの計算例
上の例題のスワップにより、インパーマネントロスがいくら発生するのか計算してみましょう。
インパーマネントロスは、次の式で計算できます。



価格変化後の流動性と、仮に流動性を提供していなかった場合の価格変化後の資産を比べることで計算できます。
先ほどの例題の数値を当てはめると、スワップ実行後に発生するインパーマネントロス(%)は次のようになります。
インパーマネントロスの金額にすると、分母の102,500×2.439%=2500USDTとなります。
従って、この時点で流動性を解除する場合、あなたは2500USDT以上の手数料報酬を稼いでなければ、損失が発生することになる訳です。
インパーマネントロス計算の一般式
インパーマネントロスの式は文字で一般化することで、さらにイメージしやすくなります。
前提となる条件を次のように文字で置きます。
- P0:トークンAの現在価格
- P1:トークンAの変化後価格
- r=P1 / P0(価格比)
- X0:トークンAの流動性提供枚数
- Y0:トークンBの流動性提供枚数
結論、インパーマネントロス(IL)は価格比率rのみで次のように表せます。他の情報は要りません。



ここから上のr式の証明を行っていきます。
価格Pは流動性枚数XとYで次のように表せます。
分散型取引所AMMの式「xy=k」と(1)(2)の式より、次の2つの関係式が得られます。
(1)(2)(3)(4)の式より、X1は次のようにrとX0で表せます。
このように、あなたが提供する流動性の枚数は定数kと価格比rのみで表すことができ、流動性の枚数関係の式ではkが消えてrのみで表せます。
Y1についても同様に計算すると、次の式が得られます。
価格変化後のあなたの流動性をVLPとすると、VLP=X1P1+Y1となり、(5)(6)式よりrとY0で表せます。
あなたが流動性を提供せずにガチホしていた場合の価格変化後の資産額をVHODLとすると、同じようにrとY0で表せます。
以上より、インパーマネントロスは次のように価格比率rで表せます。
従って、価格変化率だけで次のようにインパーマネントロスの損失表を作ることができます。
| 価格変化率r | 損失 (%) | BTC価格例 |
|---|---|---|
| 1.00倍 | 0.0% | 100,000USDT/BTC |
| 1.25倍 | 0.6% | 125,000USDT/BTC |
| 1.50倍 | 2.0% | 150,000USDT/BTC |
| 1.75倍 | 3.8% | 175,000USDT/BTC |
| 2.00倍 | 5.7% | 200,000USDT/BTC |
| 3.00倍 | 13.4% | 300,000USDT/BTC |
| 4.00倍 | 20.0% | 400,000USDT/BTC |
| 5.00倍 | 25.5% | 500,000USDT/BTC |
インパーマネントロス 損失早見表



インパロスの%×価格変化後のガチホ時資産(HODL資産)でインパーマネント金額が計算されます。
1.25倍程度なら0.6%しかインパーマネントロスは発生しないため、価格変動が比較的安定しているBTCやETHであれば、そこまで気にする必要がないことが表より分かります。
インパーマネントロスの計算ツール
以下のぱんだくりぷと作成のインパーマネントロス計算ツールを使うと、インパーマネントロスの%と金額を自動で計算できます。
価格変化率を入れるとパターンと、価格そのものを入れるパターンを切り替えて利用できます。
インパーマネントロスの対策方法


インパーマネントロス(IL)の対策方法は次の3点です。
- ILが解消されるまで待つ
- ILを上回る利回りを稼ぐ
- ILが発生しにくいプールを狙う
①ILが解消されるまで待つ
インパーマネントロスは名前の通り「一時的な損失」のため、価格が戻れば解消されます。
インパーマネントロスが確定するのは、「流動性マイニング」を辞めて解除したときです。
例えば、片方の仮想通貨の価格が上昇してインパーマネントロスが発生した場合でも、もう片方の仮想通貨価格が上昇するまで待てばインパーマネントロスは発生しません。
※プールの枚数比が元に戻れば解消されるということ。
②ILを上回る利回りを稼ぐ
インパーマネントロスが発生しやすい銘柄は「流動性マイニング」の利率が高いため、損失より多くの利回りを稼げば問題ありません。
流動性マイニングのパフォーマンスは「利回り-インパーマネントロス」で評価されます。
従って価格が変動しやすい銘柄はインパーマネントロスが発生しやすいため、流動性が提供されづらく、利回りが自然と高くなる構造です。



APRで100%を超えるものも多いため、インパーマネントロス発生前提で運用し、トータルの純利益プラスを目指しましょう。
③ILが発生しにくいプールを狙う
価格が変動しない「1米ドル連動型のステーブルコイン同士のペア」で流動性を提供すれば、インパーマネントロスは発生しません。
ステーブルコインはxy=kのAMMが使用されず、「StableSwap AMM」と呼ばれる特別なAMMが使用されており、流動性の価値がほとんど変化しない仕組みになっています。
インパーマネントロスのリスクが低いほど運用先として人気が高く、流動性が提供されやすいため利率が下がりますが、安全に運用できます。
運用利率の目安は次の表の通りです。
| リスク区分 | ペア例 | 利率例 |
|---|---|---|
| 低リスク | ステーブルコイン同士 (e.g. USDT-USDC) | 1%~10% |
| 中リスク | 時価の大きい通貨同士 (e.g. BTC-ETH) | 11%~30% |
| 高リスク | ミームコインを含む (e.g. PEPE-ETH) | 31%~1000% |
まずはステーブルコイン同士でリスク最小限で運用し、その後より高い利回りを得たくなった場合、BTCやETHを含むペアでインパーマネントロスを体感するのがおすすめです。
「おすすめの流動性マイニングのやり方」は、下の記事で詳しく解説しています。


まとめ:インパロスに注意して運用しよう


分散型取引所のインパーマネントロス(Impermanent loss, IL)のまとめは、次の通りです。
- ILは価格が変わると必ず発生
- ILはあくまでも一時的な損失
- 価格が戻れば解消する
- 流動性解除でILは確定する
- 発生しても利回りが上回ればOK


ちなみに、本記事で紹介したインパーマネントロスは価格範囲を指定しない一般的な分散型取引所の流動性プールの例となります。(Uniswap V2タイプ)
最近の分散型取引所では「集中流動性」と呼ばれる、価格範囲が指定された流動性の仕組みを採用していることが多く、本記事のインパーマネントロスの計算式や損失早見表は使用できません。
「集中流動性のインパーマネントロスの仕組み・計算式」、下の記事で詳しく解説しています。





集中流動性の方がリスクがずっと高いので、集中流動性で運用する前に損失早見表だけでも上の記事で確認しましょう。



ご覧いただきありがとうございました。
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※2020年5月1日より「仮想通貨」は「暗号資産」へ呼称変更されていますが、一部記事では「仮想通貨」の表記を継続する場合があります。当サイトの「仮想通貨」は「暗号資産」を指します。
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その他仮想通貨に関する注意喚起について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
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